錦江湾探検隊
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鹿児島大学水産学部資源育成科学講座 大富 潤

錦江湾深海底の生き物調査
 

深海底をのぞいてみよう

 「右、前方にイルカ発見!」
 船内放送で船長の声が流れます。急いで甲板(デッキ)に出てみると、数頭から数10頭のイルカたちがジャンプしながら船に接近。やがて彼らは船のへさきにならび、伴走を始めます。これは、私たち鹿児島大学水産学部の、錦江湾をフィールドとした乗船実習の1コマです。
 イルカは海で暮らす生き物。私たちはイルカが海面に顔を出した時にしかその姿をみることができませんが、彼らは自由自在に海の中を泳ぎ回っているのです。では、錦江湾のイルカたちは海の中で、毎日どのような光景を眺めているのでしょうか?
 私たちの目の前にひろがる錦江湾は、東京湾や有明海などと同じように、入り口が狭く、外の海との海水の出入りが比較的少ない半閉鎖的な内湾です。しかし、他の半閉鎖的な内湾の深さが数10m程度であるのに対し、錦江湾は大陸棚の外の海に匹敵する、230m以上もの深さがあります。つまり、錦江湾は他に類のない、内湾と深海の特徴をあわせもつ不思議な“どんぶか”の海なのです。
 陸の上とはちがい、海の中は人間が直接みることができないため、まだまだ知られていないことがたくさんあるはずです。
 「イルカたちと同じように、海の中をみてみたい。錦江湾の海底にはどんな生き物がいるのだろうか?」
 そんな思いから、私たち“探検隊”の活動が始まりました。錦江湾でいちばん謎が多いのは、なんといっても湾中央部にひろがる砂泥の深海底。砂浜や岩場の潮だまりとちがい、人間が簡単に近づくことはできません。そこで、水産学部の練習船、南星丸(175トン)を使った乗船実習で、生き物を採集することにしました。何度も何度も海に通い、深海底を探るのです。
 現時点で、錦江湾の砂泥の海底には150種以上の魚類、100種以上の甲殻類(エビ・カニ・ヤドカリの仲間)、20種以上の軟体類(イカ・タコ・二枚貝・巻貝の仲間)がすんでいることがわかっています。“探検”は目下継続中。その数はまだまだ増えると思います。


知られざる深海エビの生態

 興味深いことに、錦江湾には“深い海の生き物”と“浅い海の生き物”がいっしょに暮らしています。そして、他の海にはあまりいない珍しい生き物もいます。そのひとつ、ナミクダヒゲエビ(地方名アカエビ)を知っていますか? 燃えたぎった桜島の溶岩を思わせる真っ赤な深海性のエビで、生食はもちろんのこと、塩焼きや天ぷら、中華料理など、いろんな食べ方のできるとてもおいしいエビです
 このエビの最大の特徴は、その名の通り“管ヒゲ”をもつことです。第1触角とよばれる“ヒゲ”がススキの葉のように長くて平らな形をしていて、左右2対、計4本の第1触角を束ねると1本の管になります。このエビは海底の泥にもぐる習性がありますが、その際にこの管を海中に出し、酸素に富む新鮮な海水をエラに補給するのです。つまり“管ヒゲ”はシュノーケルの役割を果たすわけです。
 母エビは6~12月に卵を産みます。生まれたばかりの子どもは姿かたちが親とは全く異なり、プランクトンとして海をただよいます。その間は危険がいっぱいで、外敵におそわれず無事に親になるのは、ほんのひとにぎりの個体にすぎません。したがって、私たちの食卓に上るエビは、厳しい試練を乗り越えた精鋭たちなのです。
 ふだん何気なくいただいている錦江湾の海の幸も、それぞれの生き様があるのです。青い海の中でいっしょうけんめい生きている小さな命たちのおかげで、私たち人間は幸せな気持ちになることができるのですね。


錦江湾のイルカたちです
 

時には親子で体験
 

みんなが探検隊。初めて見る
生き物たちにおどろきの連続でした

 

錦江湾で大活躍の南星丸