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鹿児島大学水産学部資源育成科学講座 寺田竜太
 
ヤツマタモクの生殖器官と放出された卵。毎年5月頃放出される(生殖器官の直径約1.5mm、長さ約5mm)

藻場とは?

 錦江湾には、海の植物が森や草原のように生育しています。海の植物も陸の植物と同じように栄養分を吸収し、太陽の光で光合成をして酸素を出す生き物です。私達は、海の森や草原を藻場(もば)と呼んでいます。藻場には、微生物から魚介類(魚や貝、エビやカニなど)まで様々な生物が生活しています。また、普段は他の海にいる魚介類も卵を産みに藻場にやってきたり、外敵から身を隠す場所にしたりしています。藻場がなくなると光合成をする植物がいなくなるだけでなく、魚介類の生きていく場所もなくなってしまいます。私たちが錦江湾でたくさんの生き物に会えるのも、たくさんの魚介類が獲れるのも、藻場があるおかげと言っても過言ではありません。
錦江湾にはたくさんの種類の海の植物が生育しています。それらは、陸上の植物と同じ仲間で花を咲かせる海草(うみくさ:海産顕花植物)と、花を咲かせない海藻(かいそう:藻類)に分けられます。海草は水深1-3m程度の砂地や干潟に生育し、特に大きな群落をアマモ場と言います。錦江湾では湾奥部や稲荷川河口、喜入から指宿にかけての海岸にアマモが生育しており、分布の南限にあたる貴重なアマモ場として知られています。アマモは、秋に芽を出して徐々に成長します。春に小さな花を咲かせ、初夏に種子をつくると枯れてしまいます。

海藻の森

 海藻は水深1-20m程度の岩や消波提の上に生育し、錦江湾では250種以上が知られています。特に、体が褐色のホンダワラ類と呼ばれる種類の海藻は大きな群落をつくり、ガラモ場と言います。私達がよく食べるヒジキもホンダワラの仲間です。桜島の岩礁域では、ヒジキが潮間帯(満ち潮で海水に覆われ、引き潮で干出する部分)の下部に生育し、水深2-4m付近にはヤツマタモクやマメタワラ、アカモクという種類が混生しています。ホンダワラ類は初冬から春にかけて成長し、5月頃成熟して夏前に枯れてしまいます。また、これらの種類は波あたりの穏やかな内湾等の場所に多く見られます。桜島周辺は波が穏やかで海藻の生育に適した岩礁が各所に形成されており、内湾性のホンダワラ類にとって生育しやすい環境と言えます。 一方、錦江湾の南部では、荒波が強く打ち寄せる岩礁域が佐多岬や長崎鼻などに広がっています。このような場所は付近を流れる黒潮の影響を強く受けており、外海性・亜熱帯性の海藻が多く見られます。特に、フタエモクというホンダワラ類が波あたりの強い場所の潮間帯下部に生育し、この海域で唯一のガラモ場となっています。本種も初冬から春にかけて成長し、6月頃成熟して枯れてしまいます。またこの海域には、体が紅色をしたトサカノリが水深3-10mの岩礁に生育しています。本種は海藻サラダの材料として有用な海藻で、日本でも主要な産地のひとつになっています。
 桜島の内湾性海藻から錦江湾南部の外海性・亜熱帯性海藻、砂地や干潟の海草など、錦江湾の藻場は場所によって大きく異なります。また、藻場の種類によってその中で生活する魚介類の種類も違ってきます。これが錦江湾の藻場の特徴であり、錦江湾でたくさんの種類の生物が見られる理由のひとつと言えます。近年、錦江湾の藻場が少しずつ減ってきています。藻場がある浅瀬の埋め立てや環境の変化など理由は様々ですが、藻場がこれ以上失われないように海藻・海草の生態や海の環境の変化を長期的に調べていく必要があると考えています。


外海性・亜熱帯性のガラモ場。内湾よりも小型のホンダワラ類が多い。
 

海の草原、アマモ場。
 

トサカノリ、海藻サラダの原料。
 

ヒジキ
 

海の森、ホンダワラ類が生育する
内湾性ガラモ場