鹿児島大学海洋資源環境教育研究センター 小山次朗 |
1990年以前に船底防汚塗料などとして大量に使用された有機スズという物質によって、一部の種類の巻貝のメスがオス化する現象が報告されました。この現象をインポセックスといいます。その後、有機スズは使用されなくなりましたが、海底の泥にまだたくさん残っていることが分かっています。私たちは、錦江湾ではどうなのかが知りたくて、大きさが2cm程度のイボニシという巻貝のメスを採取して、インポセックスが起こっているかどうかを調べました。
私たちが調べた結果と過去のデータを比べると、ほとんどの地点でイボニシがインポセックスから回復しつつあることが分かります。しかし、一部の地点では泥に残っている有機スズのためにまだ多くのイボニシがインポセックスを引き起こしています。
有機スズは、私たち人間が食料としている魚や貝にはあまりたくさん蓄積していないため、人間への影響はありません。しかし、自然界には私たち人間よりずっと弱い生き物がたくさんいて、私たちが使った化学物質によって大きな影響を受けることがあります。
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鹿児島大学海洋資源環境教育研究センター 小山次朗 |
神秘的な光を放つ夜光虫。外からの刺激によってルシフェリンが放出されることで光る。海の厄介者も時には美しく輝く時がある。 |
夜に海辺を散歩した時には、目を凝らして水の中を観察してみて下さい。そこに無数に光る何かを見つけるはずです。それがプランクトンです。プランクトンの中には、光を放つことで捕食者の目を眩まして逃げる習性を持つものがいます。
夜光虫はその代表的なプランクトンですが、錦江湾では夜光虫が多くなる春にこの現象を間近で見ることができます。海辺に小石を投げ入れると、波紋に沿って神秘的な光を放ちます。このような時期に舟が水面に曳波をたてると、あたかもオーロラのような美しさを海で見ることができます。夜光虫は赤潮となるくらい増えすぎるため、厄介者扱いされることが多いのですが、美しい一面も見せるプランクトンです。
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鹿児島大学水産学部資源育成科学講座 小針 統 |
私はときどき海の観測をするために航海に出ます。観測では、海水の成分を分析するために海面から海底までの数カ所の深さから海水を汲みあげます。そのおこぼれを頂戴して海水の味見をするのが私の愉しみです。海水の味は深さや海域によって驚くほど違います。それは、海水に溶けているミネラルの量が微妙に異なるからです。
たとえば、太平洋の表面はヒリヒリと塩辛く、深さ1000mは少しマイルド、海底近くの深さ6000mは塩辛くて苦い。私の一番のお気に入りは、北太平洋の真中の深さ800mにある「角のない塩辛さとほんのり甘い後味」の海水です。ちなみに、錦江湾の深さ100mの海水はヒリヒリとした塩辛さが尾を引きます。
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鹿児島大学水産学部資源育成科学講座 寺田竜太 |
ワカメと聞くとどのような形と色を思い浮かべるでしょうか?きっと、みそ汁の中の緑色をした切れ端を思い浮かべる人が殆どかもしれません。ワカメは私達に欠かせない食材ですが、生きているときの姿を目にすることはありません。実は、すらりと延びた茎と横に広がる葉からなる体長1mほどになる大きな海藻です。色は鮮やかな緑色ではなく、薄い褐色をしています。これは、収穫後に湯通しして褐色の色素が緑色に変色してしまうためです。
ワカメは、錦江湾内の各地で冬から春にかけて見ることができますが、錦江湾は日本のワカメの分布で南限に位置しています。皆さんも、海に出かけることがあれば是非探してみてください。
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鹿児島大学水産学部資源育成科学講座 大富 潤 |
ナミクダヒゲエビをねらった漁業がみられるのは、世界中で錦江湾だけです! にもかかわらず、その存在はあまり知られていません。
このエビが魚屋さんにならぶことは少なく、たとえ売られていても「地元錦江湾でしか捕られない…」といった宣伝はありません。また、今のところ、地元の飲食店や学校給食でもこの地元の海の幸が出されることはほとんどありません。
一方、漁師さんのお宅ではこのエビの料理のレパートリーは豊富で、当たりまえのように日々の食卓に上ります。
私は、ナミクダヒゲエビをはじめとする地元の海の生き物を研究していますが、地元の海の幸の存在を地元の人たち、特に子どもたちに伝えることも大切な仕事だと考えています。
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鹿児島大学水産学部漁業基礎工学講座 江幡恵吾 |
タコつぼの中で産卵したマダコ |
焼酎廃液タコつぼの実証試験を始めて、ちょうど3回目の潜水調査で、幸運にもタコの卵が孵化している瞬間を見ることができました。マダコの母親が卵に向かって、一生懸命に海水を吹きかけ、その中からタコの赤ちゃんが次々と出てきたのです。せっかく生まれてきたばかりの赤ちゃんには悪かったのですが、何匹かをボトルに入れて研究室に持ち帰り、顕微鏡で見てみました。
海洋資源環境教育研究センター博士課程の島袋寛盛君の協力で、生まれたばかりの赤ちゃん(体長約3mm)の撮影に成功しました。海中では真っ白に見えたタコの赤ちゃんは、実は赤い色をしていて、ちゃんと吸盤もありました。錦江湾の神秘に直面できたようで本当に感動的でした。
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鹿児島大学水産学部 大富 潤・江幡恵吾 |
トントコ網やサヨリ漁などで使われる網は、漁師さんの大切な道具です。大量の魚が網に入ったり、海底の岩に網が引っかかったり、また、長い間使っているうちにすり減ってきて、網が破けてしまうことがあります。そんな網を使っていると、破けたところから魚が逃げてしまいますよね。
そうなると大変!漁師さんたちは、網針(あばり)、目板(めいた)と呼ばれる竹でできた道具を使って、器用な指使いで、しかもあっという間に網の修理をしてしまいます。網針と目板は市販のものもありますが、漁師さんたちは自分にとって使いやすいものを自分の手で作っています。
もちろん、海の上で漁をしている最中に、急きょ網の修理が必要になる時もあります。船上での作業は船がゆれて大変そうだけど、そんなのは平気。実は、こんなところにも漁師さんの“技”と“道具を大切にする心”が秘められているのです。
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鹿児島大学水産学部海洋社会科学講座 佐野雅昭 |
地ダコは生きたまま売られることが普通です |
錦江湾にも漁業は未だに健在です。生産量は養殖業が圧倒的に大きいのですが、それ以外にも刺し網、釣り、たこつぼ、潜水漁業、まき網など、様々な漁業種類が頑張っています。
湾口部では桜の咲く頃にマダイの一本釣りが盛んに行われていますが、これらは釣りものとして高級魚として扱われています。マダイは県内水揚げの半分近くが錦江湾で漁獲されているんですよ。
夏には錦江湾のたこつぼで漁獲される地ダコが旬になります。さっと塩ゆでにしたり、天ぷらにすると堪えられません。
秋になるとタチウオが釣れ出します。塩
焼き、バター焼きなど焼き物にしたら最高の素材ですよね。晩秋~冬には養殖のブリやカンパチも一番美味しくなります。錦江湾の旬の海の幸を楽しんで下さい!
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鹿児島大学水産学部海洋社会科学講座 佐野雅昭 |
喜入では香り高いアオノリも養殖されています。 |
新鮮な養殖ブリや養殖カンパチはもちろんお刺身が最高の食べ方です。ご飯にもお酒にもよく合いますよね。でも美味しい食べ方はそれだけじゃないんですよ。薄くスライスして洋風にドレッシングで和えたカルパッチョや、胡麻油と岩塩でいただく中華風刺身もかなりいけます。
でも一番のお勧めは「しゃぶしゃぶ」なんです。お刺身用のサクをできる限り薄くスライスして、昆布の利いた薄目のだし汁にさっと通します。これを酸味を効かせたポン酢でいただくのですが、さっぱりしていくらでも食べられちゃいますよ。中まで熱が通らないように、ごく短時間だけ「しゃぶしゃぶ」するのがコツです。表面が白くなったらもう大丈夫。是非一度試してみて下さい。アオサと一緒に食べるのが錦江湾風です!
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福山養殖 小林松三郎 |
近くの小学校で養殖のことを子ども達にも伝えています。 |
給餌養殖は、仕切りのない海で餌を与えることから、餌カスの流失、魚たちの糞尿が環境に与える影響は決して小さくありません。各地で水質の悪化や、赤潮などの原因の一つとなっており、残念なことに有効な対策はまだありません。
しかし養殖業は環境が綺麗でなければ営むことができません。綺麗な海でこそ元気で美味しい魚が育つのです。そこで錦江湾の養殖業者は、餌を丹念に作り無駄な餌の流出をなくすこと、糞が少なく環境に優しいEP餌料の使用と開発を進めること、海を綺麗にするコンブの養殖を一緒に行うことなど様々な努力を行っています。「錦江湾は養殖をやっているからきれいなんだよ」と胸を張って言えるようになるのが夢なのです。
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潜水漁業師 山口太吾 山口東洋一 |
これが錦江湾のアカナマコです。 |
ナマコは海の底にたまった泥や有機物を体内に取り込み、消化し、綺麗な泥にして排泄するので、海の掃除屋と言われています。ナマコが多い海底は綺麗になると言われており、環境維持のためにわざわざナマコの種苗を放流する地域もあるのです。
そんな天然のナマコが錦江湾にはたくさん棲んでいるので、綺麗な環境が保たれているのではないでしょうか。私たちはウニやナマコといった、錦江湾の豊かな自然の恵みのお陰で生活しています。いつまでもこの海から美味しい水産物を地域の方々に提供していきたい、そのためにも綺麗な錦江湾をずっと大切に守っていきたいと考えています。
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ダイビングサービス海案内 出羽慎一 |
アオリイカの産卵 |
僕が始めて錦江湾と出会ったのは、18年前のことでした。大阪湾の浜辺で、毎日海に遊んで育った僕にとって、南の海は憧れの対象でした。
学生時代の僕は、海漬けの日々でした。年間300日以上海に潜り、アルバイトをしては、奄美や沖縄の島々、さらに海外へと僕の潜水行は、広がっていきました。
そのうちに、僕の中で錦江湾の存在がどんどん大きくなってきたのです。一言で言うなら「他のどの海とも似ていない個性的な海。」そして「様々な環境を内容している海」だということに気付いたのです。閉鎖的な内湾にもかかわらず、深海と呼べるほどの深みを秘めた錦江湾。都市の目の前の海なのに、僕が確認した魚だけで630種以上に及ぶほど、生物相豊かな錦江湾。
もっともっと錦江湾のことが知りたい。僕の錦江湾通いは、まだまだ続いていくことでしょう。
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(株)ランドアート シーカヤックガイド 安藤康志 |
カヤックしか入れない水路へ進入!! |
珊瑚や熱帯魚が多く生息する沖小島。浸食が進み小さくなっていると言われている軽石島。
錦江湾の真ん中で鹿児島市のビル郡と桜島の風景を一望できる神瀬灯台。
カヤックでしか行けないプライベートビーチや、砂浜を掘るとお湯が出るビーチなど様々です。
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