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2018年07月30日

研究教育その他

黒潮は海の砂漠?


小針統

これまで長い間、黒潮は栄養塩濃度が低く植物プランクトン生物量が少ないため、海の砂漠と考えられてきました。しかし、その黒潮流域では日本の水産資源を支える多くの回遊性魚介類が産卵・索餌することが知られています。この矛盾は”黒潮パラドックス”と呼ばれ、そのメカニズムについては未だ解明されていません。

そこで、文部科学省国家基幹研究開発推進事業として、我が国の魚類生産を支える黒潮生態系の変動機構の解明(SKED: The Study of Kuroshio Ecosystem Dynamics for Sustainable Fisheries)という大型研究プロジェクトが、北海道大学・東京大学・東京海洋大学・長崎大学・鹿児島大学・水産総合研究センターなどの研究者によって実施されており、鹿児島大学プランクトン研究室ではその重要な部分を担っています。

この研究における東シナ海の広域観測と試料解析の結果から、黒潮の流れが速い海域やそれよりも外洋域でも沿岸域に匹敵する動物プランクトン生物量や生産力があることが分かってきました。これは、黒潮流域には回遊性魚介類にとって良い餌料が存在することを示しており、黒潮パラドックスを解く鍵の1つと考えられます。これまで黒潮は海の砂漠と考えられてきましたが、この概念は再考する必要があります。

この研究成果は以下の学術雑誌にて発表され、国内外の学会でも報告されました。

Geographic variability in taxonomic composition, standing stock, and productivity of the mesozooplankton community around the Kuroshio Current in the East China Sea

T. Kobari, W. Makihara, T. Kawafuchi, K. Sato, G. Kume

Fisheries Oceanography, 27: 336-350