トピックス

2022年09月13日

観測速報研究

流れ藻漂流シミュレーション


仁科文子

 薩南海域への流れ藻来遊予測のための数値シミュレーションを開始しました。海洋モデルと観測データから実際の海洋に近い海況を再現・予測する「海況予測システムDREAMS」で再現した海に流れ藻を模した粒子を漂流させて追跡を行なう「粒子追跡シミュレーション」という手法です。今回は流れ藻を表層流で流すだけのシミュレーションですが、海面付近を流れる物体は風の影響も受けます。今後は、風の影響も加えた漂流シミュレーションも行い、第1回の観測速報で紹介した漂流ブイのデータを用いてシミュレーション結果を検証する計画です。

PDF版はこちらです(PDF版では記事内のシミュレーション動画は再生されません。ページ下方の動画をご覧下さい。)流れ藻観測速報007_20220510

=====数値シミュレーション速報=====

実験期間:2021年3月・4月
モデル:Dreams_Energy(DR_E)
実験海域:黒潮流域

解説:ブリ養殖は日本の主要な海面養殖業だが、多くの予測困難なリスク要因を抱えている。特に、養殖に必要な種苗(ブリ稚魚:通称モジャコ)の漁場探索には多大な労力・時間・経費を要し、不確実性も高い。このため、鹿児島大学水産学部では、モジャコ漁のスマート化を目指した研究を行っている。
 流れ藻にはモジャコが随伴しているため、流れ藻が来遊する薩南海域はモジャコ漁の主漁場となる。しかし、この流れ藻が薩南海域において、いつ・どのように・どこへ来遊するのか予測することは極めて困難である。そこで、世界トップレベルの高い時間・空間分解能を有する海洋モデルを使って、流れ藻が来遊するタイミング・海域の予測を数値実験している。
 ブリの産卵海域と考えられている中部東シナ海陸棚域に、流れ藻に模した粒子を3月1日および4月1日に放流し、その行方を追跡した。ブリ産卵海域の流れ藻は、黒潮フロントに沿って下流域に流される傾向があり、薩南海域(黒島・硫黄島・竹島・沖永良部島・屋久島・種子島海域)までおよそ7~14日を要した。2021年については、3月に比べて4月のほうが、より下流域に早く流れ藻が流される傾向も認められた。
 この数値実験結果は、実際に観測された流れ藻の来遊経路、来遊時期、来遊海域と比較・補正されていない。今後は、鹿児島大学練習船によるGPS漂流ブイ実験、流れ藻観測などの結果を使って補正し、海上風による漂流効果も考慮して、より確度の高い予測を行う予定である。

鹿児島大学工学部によって運用されている高分解能海洋モデル(DR_E)を使って、ブリの産卵海域に粒子(黒点)を放流し追跡した2021年3月の数値シミュレーション結果.

2021年4月の数値シミュレーション結果.