ギマラス島重油事故関係 第9弾

【速報第9弾:松岡達郎教授(学部長)(平成18年10月11日)】

9月7日に始まり10月4日までの期間に、学部教員その他関係者のみなさんから寄せられた速報もほぼ一段落したと感じます。現場を見ての印象記の範囲内ですが、問題点はほぼ浮き彫りにされたと感じています。
砂浜や岩礁、マングローブ林への油の浸み込みや付着といった沿岸環境への物理的影響と、水圏生物(魚類、貝類等)の体内への油成分、毒性物質の残留といった直接的汚染(可能性も含めて)が報告されました。砂浜の油除去のようにそれなりに対処が進んでいるものもあれば、マングローブ林のようにほとんど手付かずのままのものもあります。ギマラス島南端部での漁業活動の停止、水産物全般の摂取控え傾向といった風評被害的な面も報告されています。餌魚の不足や汚染による、汚染地域以外の漁業や養殖業への影響もあるようです。食用魚の汚染や油臭の残留といった、水産物の食の安全性・適正や、安全基準についても多くの調査・研究課題があるようです。現在は、現地住民は油除去作業員としての臨時雇用による収入がありますが、将来の収入に関する不安もあります。汚染地域住民の健康被害に関する懸念はきわめて強く、現地医療ボランティアの活発な活動が報告されています。被害を避けるため、汚染の酷い地域の住民や学校は疎開しており、長期にわたれば社会的影響が大きいのではないかとの懸念も示されています。
他の方々が触れていなかった点では、私は、浅海のサンゴへの油分の付着をほとんど目撃しなかったことに驚きました。月齢と事故当時付近にあった低気圧のために潮位が高い時期が続き、波も大きくなかったことから、サンゴが海面に触れることが少なかったのが原因ではないかというのが、UPV関係者と話し合った推測です。マングローブ林の被害に対して対策がほとんどないというのは、環境以外へ長期的影響を与えるのではないかと懸念します。熱帯僻地の村落では、マングローブ林は薪の入手や、カニ、貝類、シラス(稚魚)の採捕など、主に女性の活動の場になっています。ここからの収入源が途絶えることは特に女性の生活への影響が大きく、長期的にはジェンダー・イシューさえ引き起こすのではないかと心配します。
UPVのAguilar学長と話し合った時、事故後の活動をrescue(緊急対策)、recovery(回復)、monitoring(長期的観察)に分けて考え、外国の大学である鹿児島大学水産学部に期待するのは主にmonitoringについてであると言われ、意見が一致しました。しかし、こうしてみなさんの報告を見ると、沈船やその油槽に残る重油そのものへの対処や、環境汚染の除去、回復といった、recovery段階の活動への情報提供なども期待されていることが分かります。
今回は、もっぱら水産学部関係者が調査に当たりましたが、住民への健康被害やマングローブ林汚染の問題など、水産学の範囲には納まらない問題も浮かび上がっています。今後は、医学部、農学部等へ協力を呼びかけ、総合大学である鹿児島大学の力を生かした調査・研究協力に取り組んで行きたいと考えています。

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